Development story 開発ストーリー

皆さんは「スライド映写機」をご存知でしょうか。写真をリバーサルフィルムというものに変換して投影するデバイスで、1960年代にプレゼンテーションや教育の現場で普及していました。スライドショーという言葉もこのスライド映写機が由来です。

その後、1987年にPowerPointが誕生し、今ではプレゼンテーションといえばPowerPointが当たり前の時代となりました。もちろん初代PowerPointのリリースからの30年間に、様々なプレゼンテーション用ツールがリリースされましたが、スライド映写機時代から始まったスライドを順番に見せていく、というスタイルは、基本的に変化がありませんでした。

このスライド型プレゼンテーションには、様々なメリットがあります。画面が安定しており、一覧性が高く、紙芝居のようにシンプルで単純明快です。図やグラフを解説するには最適な形と言えるでしょう。このスタイルが長い年月にわたって定着し、多くの人に愛され続けているのにはこのような理由があるためでしょう。

しかしデメリットもあります。スライドがページ単位なため、前後のページとの関係性が断絶してしまう事、断絶を避けるために1ページに情報が詰め込まれてしまいがちなところです。

始まりの時

私はこれまで20年以上ビジュアルデザインの仕事に携わってきました。仕事を始めた最初の数年は美しいビジュアルを作ることこそが重要でした。しかし仕事を続ける中で、仲間やクライアントとアイデアを共有する事の重要性が高まっていきました。
そこで私はスライド型のプレゼンテーションを活用することにしました。おそらくmacOSのプレゼンテーションツールKeynoteの最初のバージョンが出た2003年頃です。当初、その効果は絶大で、仕事にも良い影響を与えました。当時は適切なスライドがコミュニケーションの質を向上させる事を実感したものでした。
しかし、同時に、スライド型プレゼンテーションに窮屈さを感じるようになっていきました。企業向けのセミナーや、大学での講義なども数多く担当するようになった頃でしょうか。よくこんなことを考えたものです。

アイデアをページ単位に分割しないで、物語の流れのように連続的に表現できないだろうか。
レイアウトはツールに任せて、もっと内容に時間をかけられないろうか。
聴講者に参加してもらうような仕掛けを作れないだろうか。

そうした思いが募る中、いつの間にかBreakfastプロジェクトは始まっていました。
2013年、私はJavaScriptやPHPを用いて自分用のプレゼンテーションツールを作り始めたのです。

大学の講義用に作られたそのツールは、ひっそりと誰にも知られることなく開発が進められ、2017年にはmacOSアプリとなり、私の講義やプレゼンテーションを力強くサポートしてくれる存在になりました。

そして、2018年。決断しました。このツールを多くの人に使ってもらおう。プレゼンテーションの新しい形を体験してもらおう。

WOWに開発の相談を持ちかけたのはこの頃になります。
そしてそれから1年。このテキストを書き、皆さんが読んでいる。
Breakfastの歴史は始まったばかりです。

長編の中の一編

イベントで一回だけ話す。というプレゼンテーションはそう多くはないものです。
仕事であれば、プロジェクトの進捗に合わせて何度かプレゼンテーションが必要となりますし、大学の講義であれば90分の内容が15回分必要となります。
Breakfastはこうした長期的なプロジェクトにも寄り添えるツールを目指しました。
一つのファイルの中に、複数のプレゼンテーションを追加することができるのです。

簡易的なマインドマップを作るような感覚で、長期プロジェクトを貫くストーリーを紡いでいく。そして、その長編ストーリーの中の一編として、一回のプレゼンテーションがある。
そんな感覚です。

アイデアの広場を散策する

話す内容を考えるというのは、とても創造的な行為です。

不思議なことですが「話す」ことで話し手自身が、新しい気づきを見いだすことがあり「自分はこんな考え方をしていたのか」と驚くことさえあるのです。これは情報を、分類、取捨選択、俯瞰していく行為の中で、どうしても客観的な視点が必要となり、無意識に多角的な視点から対象を捉えるようになるからだと考えています。

ノートブックを準備し、その中にページを追加していく。
原稿を机の上に並べて、俯瞰しながら構想を練る。
複数の原稿を素早く気軽に横断できる。

Breakfastではこうした気づきを誘発するために、複数のプレゼンテーションの中をうろうろと散策できるようにしました。情報の分類に浅い階層構造を採用し、素早く切り替えられるようにしています。

連なる物語の中で

以前、鈴木大拙著「東洋的な見方」という一冊の中で、「区切らない思想」というものに出会いました。分割し、個の世界、多の世界を見て行くのではなく、もともと連なっている一つの源流に価値を見出すという内容に感銘を受けた記憶があります。また別のリサーチでは、中国から伝来した「巻物」というメディアが、日本独自の進化を遂げ「交互絵巻」となった歴史にも出会いました。もともと巻物は図鑑や絵日記のような表現が主体だったのに対し、日本では言葉と絵を交互に並べて、ストーリー表現に特化していったのだそうです。先人達の工夫に感嘆した記憶があります。
もちろん、こうした出会いがBreakfastの直接ヒントになっている訳ではありませんが、開発思想には少なからず影響しているだろうと思います。東洋的な独自のメディアを目指すというのは大げさかもしれませんが、当たり前のように普及しているやり方に対して、ちょっとだけ疑問を持ち、自分のやってみたいスタイルを試してみる。こうしたチャレンジを踏み出す原動力にはなっているはずです。

Breakfastのスタイルが、あなたの目的に合っているか、向いているかはやってみないと分かりませんが、こうした試行錯誤が、あなただけの独自スタイルの確立につながる。という事があるかもしれません。
Breakfastがこうしたきっかけになったら。
ベータ版が完成しつつある今、そんな思いが高まっています。

2019.4
Breakfast 開発者 / WOW inc
鹿野 護 Mamoru Kano

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