トークイベント 01

Breakfast開発者の鹿野護が、 渋谷のWeWorkでトークイベントを開催

鹿野 護 さん

(宮城大学教授/WOW顧問/Breakfast開発者)

新しいプレゼンテーションツール「Breakfast」は、どのように誕生したのでしょうか。2019年9月、開発者の鹿野護が、東京渋谷にあるWeWorkの「Iceberg」で90分間のトークイベントを開催。実際にBreakfastで作ったスライドを使いながら、開発のきっかけや過程など、5年にも及ぶ開発ストーリーを語ったプレゼンテーションの一部を紹介します。

写真:小野奈那子 編集・文:廣川淳哉

Breakfastの開発者で宮城大学教授の鹿野護

こんばんは。WOWの鹿野と申します。今日お話したいのは、私が開発した「Breakfast」というプレゼンテーションツールについてです。今、多くの方々がプレゼンに、「PowerPoint」や「Keynote」を使っていると思います。今日は、そこにもう一つの選択肢として、「Breakfastはどうでしょうか」という話です。

ストーリー型に特化したプレゼンツール

Breakfastは、すべてのプレゼンに適したプレゼンツールかというと、そういうわけではありません。向いているのは、大学の講義やプロジェクトのプレゼンなどに使う、ストーリーを伴ったものです。これまでのスライド型のプレゼンツールのように1枚ずつの切り離されたページという考え方ではなく、1枚の縦長のページを使って、情報の関連性を示しながら、プレゼンテーションするというものです。

私がこのツールを作り始めたのは5年前。スライドやプレゼンツールにもっと選択肢があってもいいんじゃないかと思ったのが、そのきっかけです。その時、もう一つ考えたのが、スライドを作る大変さを解消できないかということでした。誰かに語りかけるように自然にスライドを作ることができれば、より伝わりやすい内容になるという考えもありました。

トークイベント冒頭では、WOW創設者の一人で代表の高橋裕士も登壇。「KeynoteとPowePointしかないプレゼンの世界を少しずつ変えられたら」と高橋。

デザイナーのマーク・ニューソンと刀匠がコラボレーションした「AIKUCHI」もWOWの作品。

ビジュアルデザインスタジオWOWとは?

WOWは、1997年に仙台で創業したビジュアルデザインスタジオです。設立20周年を超えた現在は、さまざまな企業からの依頼を受けて、映像やアニメーション、空間を使ったインスタレーション、UXデザイン、プロダクトデザインなど、幅広く創造的な分野のデザインを手掛けています。

2000年に東京、2008年にロンドンの拠点を開設しました。現在、スタッフ50名のうち約30名がデザイナーで、私は設立メンバーの一人として、デザインの仕事をしてきました。

変わったプロジェクトとしては、デザイナーのマーク・ニューソンと刀匠とのコラボレーションをWOWがディレクションしたものがあります。Breakfastは、ビジュアルデザインの視点から開発したプレゼンツールとも言えます。

トークイベントの会場となった渋谷にあるWeWorkの「Iceberg」。

プレゼンの重要性とツールへの不満

WOWでさまざまなデザインをしてきたなかで、2000年以降多くなったのが、映像など完成した作品に加えて、コンセプトやそこに至るプロセスを説明するという機会でした。出来上がった映像の内容のプレゼンの重要性が高まってきました。個人的には、こうしたプレゼンが求められるようになって、仕事もやりやすくなったように感じています。

プレゼンの重要性が高まる中、既存のプレゼンツールへの不満が高まってきました。KeynoteやPowePointといった既存のスライド型のプレゼンツールのメリットは、ひとつの情報を説明する際や、話題を切り替えるのに使いやすいこと。みんなが使っていることもあって共有しやすいし、PDFや紙でも配布しやすいのもメリットです。一方、デメリットは、ページ同士の関係性が把握しづらく、1ページに情報が詰め込まれがちなことです。

2011年、パリのポンピドゥー・センターでプレゼンする機会がありました。この時は3DCGを活用したオリジナルで特殊なプレゼンツールを使ったので、会場のPCにアプリをインストールする必要が出てしまい、とても苦労したことを覚えています。しかし同時に、表現力の高いプレゼンテーションに、新たな可能性を感じた出来事でもありました。

なぜ自分で開発しようと考えたか?

ここからが本題です。プレゼンツールに不満があったとしても、使いにくいところを我慢して使えばいい話ですよね。しかし、なぜ自分でプレゼンツールを開発するに至ったかというと、大学でデザイン教育を始めたことが大きかったです。

2013年から大学でデザイン教育に携わるようになりました。仕事に加えて、大学の講義にもプレゼンテーションが必要になって、スライド作りに費やす時間が一気に増えました。大学では毎週、90分の講義で使うスライドを4コマ分作る必要があります。そのうちスライド製作に仕事が圧迫されるようになってきました。ひたすらKeynoteに向き合って、スライドばかり作る日々が続きました。

スライドを作り続けて思ったのが、スライド型プレゼンツールの、アイデアや文脈をページの変遷で分割することの不自然さです。また、一方的に話すのではなく、プレゼン中の対話をサポートしてくれるようなスライドを作りたい。さらに、もっと手早く、もっときれいに、もっと情報を整理しながら作れないかといった気持ちも湧き上がってきました。

いろんなツールをリサーチしても、しっくり来るものはありません。ニーズを満たすツールが存在しないなら、作るしかないと考えて、作り始めました。

作ろうと思った理由には、私がこれまでも大事にしてきた道具化思考があります。道具化思考とは、道具をデザインすることで、対象物への思考や理解が深まるという考え方。例えば、以前、本に掲載するテキストを書くために、テキストを書くためのツールを自作したことがありました。テキストを書く道具を作る経験を通じて、本の構造を深く知ることができたのです。

ほかにも、新しいプレゼンツールに求めたのは、レイアウトの自動化です。レイアウトにこだわり始めると、知らず知らずのうちに時間がかかってしまうことがあります。また、PC内の大量のスライドをまとめて横断的に検索するような機能も欲しいと思いました。例えば、全15回の講義に使うスライドを一覧しながら検索して切り替えるという使い方も、達成したいことの一つでした。

そのためには、階層を広く浅い構造に留める必要がありました。Breakfastが第3階層までになっているのは、こうした考えから。3つ以上は人がなかなか把握しにくいこともあって、3という数字は大切にしています。Breakfastはレイアウトや文字サイズも、基本的には3種類から選ぶ作りになっています。

ビジネス視点ではなくビジュアル視点で作る

最初は、JavaScriptを使って簡単なツールを試作しました。それをもとに2016年3月に出来上がったのがBreakfastの前身となるツール。これは実際に講義で使うことで、問題点や改善点を抽出し、2017年3月、WOWでBreakfastの本開発がスタートします。

WOWが、コンテンツではなくコンテンツを作るツールを作る。ビジネス用のツールとして捉えられがちなプレゼンツールを、ビジュアルコミュニケーションツールとして作れないか。WOWとしての道具化思考のあり方を提示しつつ、創造的なサービスを展開する可能性を模索したいという考えもありました。

紹介する順番や内容作りに注力できる設計

これがBreakfastのメインの画面です。ノートブックの中にページがあって、ページの中にテキストと画像、ムービーを入れていきます。縦長のウェブのようなページは、縦にどんどん伸びていくので、スライド型プレゼンツールのように、1枚のページに情報を収めようと頭を悩ませる必要はありません。順番を含めて、情報をシンプルに表現しようと考えると、自然と縦スクロールに行き着きました。

レイアウトは、グリッド、フレームといったメニューから選ぶだけ。テキストや画像は、自動できれいに並ぶようになっています。横スライドの1ページに情報を詰め込むという考え方をやめ、レイアウトを微調整する手間や時間を省くことで、ユーザーは情報を紹介する順番や内容の精査に注力できる設計にしています。

あらかじめ設定した文字を画面上にランダム表示できるBreakfastの「ユニバース」機能。

対話をうながす4つのウィジェット

講義やワークショップを活性化させる仕組みも盛り込みたいと思っていました。そこで、Breakfastには、一方的なプレゼンではなく、より対話的なプレゼンにするためのウィジェットを用意しています。

これは、画面上に表示した文字がランダムに登場し流れていく「ユニバース」機能。画面にブレストやワークショップのヒントになりそうな言葉や、アンケート集計した数字を表示して使います。

「ダイス機能」は、対話のきっかけとなるウィジェット。講義の最中、あらかじめ学生の名前を入れておけば、出てきた名前の学生を指名するといった使い方ができます。自分が当てられるんじゃないかという緊張感によって、講義への真剣さが向上します。

ブレストやワークショップの時間を測る際には、iPhoneのタイマーが使われることが多いと思いますが、画面に大きく表示できるBreakfastの「タイマー機能」なら、会場の人々と経過時間を共有し、場の一体感を高めることができます。

ありそうでなかったのが「カメラ機能」。これまで、紙の資料などの共有には、スマートフォンで撮った映像を画面に映し出して使っていましたが、これを使えば目の前や手元の資料の共有が簡単です。

3Dのエモーショナルなプレゼン機能

ほかにも、画面上のAとBにその場で投票してもらうことができるアンケート集計機能や、美しいグラフやチャートなどのインフォグラフィックスを作成できる機能も考えています。情報を入力するだけで視覚化し、プレゼンテーションを強力に演出できるような機能もそのうち追加したいと思っています。

平面的なレイアウトだけではなく、プレゼンテーションが3Dグラフィックで動き出せば、よりエモーショナルな表現になると思います。アートのような、よりインタラクティブな、今までのプレゼンテーションにはあり得なかったリッチな表現を実現できないか。今、そんな機能を模索しているところです。

新しいプレゼンツールを、ぜひ使ってみてください

最後に改めて、Breakfastはストーリー型のプレゼンツールです。

5年間のプロトタイピング期間を経て、今のところ70%くらい完成しています。これから、UIを改良するなどして、さらに完成度を高めていきたいです。まずは、こういうアプローチのプレゼンツールがあると知っていただけたら幸いです。

当面は無料公開していきますので、ぜひダウンロードして実際に使ってみてください。プレゼンテーションに使う以外にも、道具化思考に触れることで、新しいビジネスチャンスや研究を進めるきっかけにしてもらえたらと思います。

今日、初めて多くの人々にBreakfastを紹介することができました。今後の展開に期待してください。ありがとうございました。

最後はカメラ目線で。

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